
2026年3月、大学院の修了式で学長が紹介された、ボストンカレッジのエピソードが印象に残っています。9.11の際、ワールドトレードセンターで赤いバンダナを口に当てながら人々を避難へと導き、自らは命を落とした同校卒業生のウェルズ・クラウザーの物語です。ボストンカレッジがいまもその献身的な行為を「赤いバンダナのヒーロー」として象徴的に扱い、上智にもその精神が赤いバンダナとともに共有されることには、大きな意義があると感じます。
一方で、混迷と対立、分断が続く現代社会において、私は「ヒーロー」という概念に一抹の危うさも覚えます。いつの時代も、先行きの見えない混迷が深まるほど、人々は力のある英雄を待望するようになります。しかし、誰かを英雄として祭り上げ、その存在に頼るとき、多くの人は自ら考えることを手放してしまいます。それが大きな過ちにつながってきたことは、歴史からも明らかでしょう。
だからこそ、私たちがいま大学院で学ぶ価値があると感じます。私自身、在学中は、特定のヒーローを求めることなく、自らの「羅針盤」を磨くための日々となりました。データとファクトを丁寧に読み解き、先端技術を活用して本質に迫り、その知見を発表する。次の社会を見据え、自らの立てた問いを”育み”ながら、その考えを語り合える仲間がいたことが大きな刺激となりました。
在学中には、第二子の誕生と子育て、そして転職・独立という大きな転機も経験しました。仕事を続けながら、子育てをしながらでも、「学び」を続けられたのは、このアットホームで開かれた上智の環境があったからこそです。
特別なヒーローはいなくても、研鑽を積む仲間や先生方がADSにはいます。自らの羅針盤を頼りに、先端技術を身に付けて、混迷の時代を進む思考力を養っていけるのが、ここの良さではないでしょうか。
小島健志